皆さんは、こんなことをしていませんか?
- 顧客リストが入ったUSBメモリをカバンに入れたまま電車に乗る
- 物件の写真に表札や部屋番号が写り込んだまま公開する
- オーナー情報が入ったエクセルファイルを暗号化せずにメールで送る
- 退去済み入居者の個人情報をそのまま保管し続ける
実は、これらの「うっかり」が、重大な個人情報漏洩事故やコンプライアンス違反につながる可能性があります。
ある不動産会社では、従業員が顧客リストの入ったノートパソコンを電車内で紛失。約200名分の個人情報が流出し、謝罪対応や信頼回復のための費用だけで1,000万円以上かかったケースもあります。さらに、会社の評判が落ち、新規顧客獲得にも大きな影響が出ました。
不動産業界では、契約書や顧客カード、物件問い合わせフォームなど、様々な場面で多くの個人情報を取り扱います。それだけに、個人情報の適切な管理は、コンプライアンス上はもちろん、顧客からの信頼を維持するためにも極めて重要です。
この記事を読むと…
- 個人情報保護法の基本と不動産業界での注意点がわかります
- 日常業務でよくある「うっかりミス」とその防止策がわかります
- 顧客データを有効活用しながらもコンプライアンスを守る方法がわかります
- 万一の情報漏洩時の適切な対応ステップがわかります
個人情報保護法の基本:不動産会社が知っておくべきこと

「個人情報」の定義:思ったより広い範囲が対象に
個人情報保護法では、「生存する特定の個人を識別できる情報」を個人情報と定義しています。不動産業界で扱う個人情報には、具体的に以下のようなものが含まれます:
- 顧客の氏名、住所、生年月日
- 電話番号、メールアドレス
- 物件のオーナー情報
- 入居者の家族構成や年収などの情報
- 物件の内見予約履歴
- 賃貸契約時の身元保証人情報
- 入居審査のための職業情報や収入証明
特に注意が必要なのは、一見すると個人情報に見えなくても、他の情報と組み合わせることで特定の個人を識別できる情報も個人情報に該当する点です。例えば、「〇〇マンション301号室の入居者」という情報だけでも、他の情報と組み合わせれば特定の個人を識別できるため、個人情報となります。
5つの基本ルールを押さえよう
個人情報保護法では、個人情報を取り扱う際の基本的なルールとして、以下の5つが定められています:
1. 取得時のルール:利用目的を明確に伝える
個人情報を取得する際は、その利用目的を明確に特定し、本人に通知または公表する必要があります。
具体的な対応例:
- 物件問い合わせフォームに「お問い合わせいただいた物件のご案内、関連物件の情報提供、アンケート調査のために利用します」と明記する
- 顧客情報の取得時には、口頭または書面で利用目的を説明する
2. 利用時のルール:目的外利用は原則禁止
取得した個人情報は、特定した利用目的の範囲内でのみ利用することが原則です。
具体的な対応例:
- 賃貸物件の問い合わせで取得した情報を、本人の同意なしに投資用物件の営業に利用しない
- グループ会社間での個人情報の共有は、あらかじめ利用目的に含めておくか、改めて同意を得る
3. 保管時のルール:安全に管理する
個人データの漏えいや紛失を防ぐため、適切な安全管理措置を講じる必要があります。
具体的な対応例:
- パソコンやスマートフォンにはパスワードを設定し、定期的に変更する
- 個人情報を含むファイルには暗号化やパスワード保護を施す
- USBメモリなどの持ち出しルールを明確にする
- 社内でのセキュリティ教育を定期的に実施する
4. 他者に渡すときのルール:本人の同意を得る
個人データを第三者に提供する場合は、原則として本人の同意が必要です。
具体的な対応例:
- 入居者情報をオーナーに提供する際は、契約時に同意を得ておく
- リフォーム会社など外部業者に顧客情報を提供する際は、事前に顧客の同意を得る
- 第三者提供の記録を作成し、3年間保存する
5. 開示請求への対応ルール:本人からの要求に応じる
個人情報保護法では、本人から保有個人データに関する開示や訂正、利用停止などの請求があった場合、それに応じる義務があります。
具体的な対応例:
- 開示請求への対応手順を事前に整備しておく
- 本人確認の方法を明確にしておく
- 開示請求に対しては、原則として2週間以内に対応する
2025年の注目ポイント:「囲い込み」規制と電子契約
2025年1月から、不動産業界における「囲い込み」行為が処分対象となる重要な規制が施行されました。この規制により、特定の不動産業者だけに物件情報を提供することや、他社への情報提供を拒否する行為などが厳しく規制されています。
また、不動産取引における電子契約の普及も進んでおり、紙の契約書から電子データへの移行が急速に進んでいます。これに伴い、電子データの適切な管理と保護がますます重要になっています。
よくある「うっかりミス」とその防止策

不動産業界で発生しがちな個人情報の「うっかりミス」とその防止策をご紹介します。
1. 物件写真に個人情報が写り込むケース
よくあるミス:
- 物件の写真に表札や郵便物、部屋番号などが写り込む
- バルコニーからの眺望写真に隣室の生活状況が写り込む
- 室内写真に前入居者の私物が写り込む
防止策:
- 写真撮影前にチェックリストを作成し、確認する
- 撮影後も写真をアップロードする前に個人情報の写り込みをダブルチェックする
- 写真編集ソフトでモザイク処理できる体制を整える
- 社内での定期的な事例共有と教育を実施する
2. 情報の紛失・漏えいケース
よくあるミス:
- 顧客リストが入ったUSBメモリやノートパソコンの紛失
- 暗号化していないファイルをメールで送信
- 顧客情報の入ったファイルを誤って全顧客にメール送信
防止策:
- 重要データを持ち出す場合は暗号化を必須とする
- クラウドストレージを活用し、物理媒体の持ち出しを最小限にする
- メール送信前のダブルチェック体制を構築する
- 誤送信防止ツールの導入(送信遅延機能、添付ファイルチェック機能など)
3. 不要データの保持継続ケース
よくあるミス:
- 退去済み入居者の個人情報をそのまま保存し続ける
- 契約に至らなかった顧客の詳細情報(収入証明書のコピーなど)を保管し続ける
- 過去の契約書や申込書を整理せずに保管する
防止策:
- データの保持期間ルールを明確に設定する(例:退去後3年経過したら削除など)
- 定期的なデータクレンジングの日を設ける(四半期に一度など)
- 自動削除の仕組みを持つシステムの導入を検討する
- 物理的な書類は定期的に廃棄し、必要なものだけ電子化して保存する
4. 同意のない目的外利用ケース
よくあるミス:
- 賃貸の問い合わせ客に対して、同意なく投資用物件の営業をする
- 取引先から得た個人情報を、関連会社のサービス案内に利用する
- 内見予約だけで取得した個人情報を、長期間にわたって営業活動に利用する
防止策:
- 利用目的ごとに明確な同意取得の仕組みを構築する
- 顧客情報の利用範囲を社内で明確にルール化する
- 定期的なコンプライアンス研修で具体的な事例を共有する
- 顧客データベースに「利用同意範囲」の項目を設け、確認できるようにする
コンプライアンスを守りながらデータを活用する方法

個人情報保護は重要ですが、だからといってデータを全く活用しないのはビジネスチャンスの損失につながります。ここでは、コンプライアンスを守りながら顧客データを有効活用する方法をご紹介します。
1. 同意取得の工夫
データ活用の幅を広げるためには、取得時の同意の取り方が重要です。
実践ポイント:
- 利用目的を具体的かつ分かりやすく説明する
- 将来的な活用も見据えた包括的な同意を得る(ただし抽象的すぎないよう注意)
- オプトイン方式を基本とし、顧客が選択できる余地を残す
- 同意の取得状況を記録し、いつでも確認できるようにする
2. 匿名加工情報の活用
個人を特定できないように加工した「匿名加工情報」は、本人の同意なく第三者提供や目的外利用が可能です。
実践ポイント:
- 氏名、住所、連絡先などの特定個人を識別できる情報を削除する
- 生年月日は年代に、住所は市区町村レベルに丸めるなど、詳細度を下げる
- 特異な属性(極端に高額な収入など)は、平均値に置き換えたり除外したりする
- 匿名加工情報を作成した場合は、その旨を公表する義務がある点に注意
3. 統計データとしての活用
個人データを統計処理して、傾向や集計結果として活用する方法も有効です。
実践ポイント:
- 「30代男性の平均契約金額」など、集計・統計化したデータとして活用
- 十分なサンプル数を確保し、個人の特定につながらないよう配慮
- マーケティング戦略や商品開発に統計データを活用
- 社内での情報共有資料として活用する場合も、個人特定につながる情報は除外
4. セキュリティ対策と教育の徹底
データ活用の前提として、セキュリティ対策と社内教育の徹底が不可欠です。
実践ポイント:
- アクセス権限を必要な社員に限定し、操作ログを記録する
- 定期的なパスワード変更やウイルス対策ソフトの更新を義務付ける
- 月1回程度の頻度で社内セキュリティ教育を実施する
- 外部からの不正アクセス対策だけでなく、内部不正にも注意を払う
不動産業界特有のデータ活用シーン

不動産業界ならではのデータ活用場面と、その際の注意点をご紹介します。
1. 物件情報の公開と個人情報の分離
物件情報を公開する際、オーナーや入居者の個人情報が含まれないよう注意が必要です。
実践ポイント:
- 物件写真に表札や部屋番号、郵便物などが写り込まないようチェック
- 間取り図に前入居者の家具配置などが残っていないか確認
- 物件の住所と所有者情報を安易に紐づけて公開しない
- 公開する情報と社内で管理する情報を明確に区分けする
2. 内見予約システムの構築
オンラインでの内見予約システムを構築する際は、顧客のプライバシーに配慮した設計が重要です。
実践ポイント:
- 必要最小限の個人情報のみを取得する
- 予約情報へのアクセス権限を適切に設定する
- 内見済みのデータの保持期間を設定し、不要になったら削除する
- スマート内見システム(スマートロックなど)を導入する場合は、セキュリティ対策を強化する
3. 入居審査のためのデータ活用
入居審査では、センシティブな個人情報を取り扱うため、特に慎重な対応が求められます。
実践ポイント:
- 収入証明書などの機微情報は、審査完了後に返却または適切に廃棄
- クレジットスコアなどの第三者情報を利用する場合は、事前に本人の同意を得る
- 審査結果の理由説明を求められた場合の対応手順を整備
- 審査データを統計的に分析する場合は、個人を特定できない形に加工
4. AIによる価格査定や需要予測
AIやビッグデータを活用した価格査定や需要予測では、大量のデータを扱います。
実践ポイント:
- AIモデルの学習に使用するデータは、匿名化または統計データを使用
- 個別物件の査定結果と個人情報を切り離して管理
- AI査定の仕組みや利用するデータの概要を顧客に説明できるようにする
- クラウドサービスを利用する場合は、データの保存場所や管理体制を確認
万一の情報漏洩時の対応ステップ

万が一、個人情報の漏えいや紛失が発生した場合の対応手順を解説します。迅速かつ適切な対応が、被害の最小化と信頼回復につながります。
1. 初動対応(発覚から24時間以内)
実践ポイント:
- 事実関係の確認と漏えい範囲の特定
- 漏えいの拡大防止措置(アカウント停止、システム遮断など)
- 責任者への報告と対応チームの編成
- 漏えい内容に応じて、警察への届出
2. 報告と通知(2〜3日以内)
実践ポイント:
- 個人情報保護委員会への報告(義務)
- 影響を受ける本人への通知
- 必要に応じて、プレスリリースなどによる公表
- 社内への状況説明と今後の対応の周知
3. 再発防止と顧客対応(1週間以内)
実践ポイント:
- 原因分析と再発防止策の策定
- 顧客からの問い合わせ対応体制の整備
- 必要に応じて、お詫びや補償の検討
- 社内研修やルールの見直し
4. 長期的な信頼回復(継続的に)
実践ポイント:
- 定期的な進捗報告と透明性の確保
- 第三者による監査や認証の取得
- 社内のセキュリティ文化の醸成
- 再発防止策の効果測定と継続的な改善
まとめ:安全なデータ活用で顧客からの信頼を獲得

不動産業界における個人情報の取扱いは、法令遵守だけでなく、顧客からの信頼を維持するための重要な要素です。特に2025年は、「囲い込み」規制の施行や電子契約の普及により、データの適切な管理と活用がますます重要となっています。
安全で効果的なデータ活用のためのポイントをまとめると:
- 基本ルールの理解と徹底:個人情報保護法の5つの基本ルールを社内で共有し、日常業務に組み込む
- 「うっかりミス」の防止策の導入:チェックリストの活用や二重確認の仕組みなど、ミスを防ぐ仕組みを構築する
- データ活用と保護のバランス:匿名加工情報や統計データの活用など、コンプライアンスを守りながらデータを活用する方法を工夫する
- 教育と意識改革の継続:定期的な研修や事例共有を通じて、全社員のデータセキュリティ意識を高める
- 万一の際の対応準備:情報漏えい時の対応手順を事前に整備し、被害を最小化できる体制を構築する
顧客情報の適切な取扱いは、単なる法令遵守の問題ではなく、顧客との信頼関係を構築し、持続可能なビジネスを実現するための重要な経営課題です。今一度、貴社のデータ管理体制を見直し、安全で効果的なデータ活用を実現してみませんか?
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